不動産法律判例一覧(その1)
不動産売買・宅建業法編
01.解体済建物内での過去の自殺
  • 当社は、古家を取り壊して建売住宅を建て販売する目的で、Aさんから土地建物を購入し、既に建物の取り壊しを終えました。ところが3年前にこの建物でAさんの母親が首つり自殺していたことがわかりました。当社は売買契約を隠れた瑕疵を理由に解除したいと思いますが認められますか?
  • 土地建物の売買において、建物中で自殺があったことが目的物の瑕疵にあたるとされる判例が定着しております(横浜地判平1・9・7、浦和地川越支判平9・8・19)。建物に付属する物置中の自殺についても肯定されております(東京地判平7・5・31 )。取り壊し目的で買い受けた建物内での自殺の場合で、しかも解体済みの場合も同様に解すべきかどうかが争点です。近時、大阪地判平11・2・18は次の通り判示しました。
判決内容

「原告が自認するように本件土地及び建物を買い受けたのは、本件建物に原告が居住するのではなく、本件建物を取り壊した上、本件土地上に新たに建物を建築して、これを第三者に売却するためであり本件建物は原告によって解体されている。

したがって、本件売買契約における原告の意思は主として本件土地を取得することにあったものと考えられるうえ、現在本件建物は存在しないのであるから、問題は、解体して存在しなくなった本件建物において、被告らの母親が平成8年に首吊り自殺したという事実が本件土地の取得においていかなる意味を有するかという点になる。

確かに継続的に生活する場所である建物内において、首吊り自殺があったという事実は民法570条が規定する物の瑕疵に該当する余地があると考えられるが、本件においては、本件土地について、かつてその上に存していた本件建物内で平成8年に首吊り自殺があったということであり、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない一空間内におけるものに変容していることや、土地にまつわる歴史的背景に原因する心理的な欠陥は少なくないことが想定されるのであるから、その嫌悪の度合いは特に縁起をかついだり、因縁を気にするなど特定の者はともかく、通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的であると判断される程度には至っておらず、このことからして、原告が本件土地の買主となった場合においてもおよそ転売が不能であると判断することについて合理性があるとはいえない。

したがって、本件建物内において、平成8年に首吊り自殺があったという事実は、本件売買契約において、隠れた瑕疵には該当しないとするのが相当である」。

自殺と隠れた瑕疵の関連につき一定のワクを設ける新判例であり、若干拡大しすぎた感のある類似事案の解決につき合理的制限を加えたものと評価することができます。

02.自殺と交換価値の減少
  • 土地建物を競落し、売却許可決定も確定しました。しかし、約2年半前に物件の共有者の一人が物件取得のための借入金の返済を苦に、本競売物件から約2、300メートル離れた山林で縊首自殺していたことがわかりました。このことは現況調査報告書、評価書、物件明細書のどこにも記載されておらず、最低売却価格の決定に何ら考慮されておりません。このような場合、民事執行法75条1項の「損傷」にあたり、売却許可決定の取消事由に該当すると思いますが、いかがなものでしょうか?
  • 自殺による交換価値の減少についてのトラブルが相次いでおります。物件内ではなく、物件から2、300メートル離れた場所での自殺が、物件の価値の著しい減少をもたらすかどうかが問題となります。本件のような自殺が民事執行法75条1項にいう「損傷」とみとめられれば、売却許可決定が取消される可能性があります。類似の事案につき、仙台高決平 8・3・5は次の通り判示しています。
判決内容

「同条1項は、競売物件の物理的損傷が判明した場合の規定であるが、競売物件の交換価値が著しく損なわれていることが判明した場合にも同条が類推適用されるべきであると解すべきことは、抗告人の主張のとおりである。

ところで、民執法75条1項は、前記したとおり、競売物件自体に生じていた物理的損傷についての規定であるところから、交換価値の著しい減少に同条を類推適用できるとしても、その範囲は競売物件に生じた事由(例えば、公法上の規制により競売土地上に建物の建築が認められない場合とか、競売建物内で殺人があった場合等)により、競売物件の交換価値に著しい減少をきたしている場合に、不動産の損傷に類するものとして同条の不許可事由又は取消事由となるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、抗告人の主張によれば、本件自殺は、本件競売物件の所在地から約200ないし300メートル離れた山林であったというのであり、本件競売物件内での出来事ではないから、同自殺が民執法75条1項を類推して売却許可決定の取消事由となると解することはできない。

確かに、本件自殺が、本件競売物件の取得代金の借入金の返済を苦にした結果であるとのことであれば、同競売物件の交換価値に何らかの影響を及ぼすであろうことは窺えるとしても、これをもって同条1項を類推適用し、本件競売物件の「損傷」と同視できる交換価値の著しい減少があったものとまで解することができないことは前記したとおりである。」

自殺物件につき交換価値減少との判断を示す判例が増加しておりますが、本判例は一線を画したものと評価できます。今後の判例の動向を見守る必要があります。

03.売主の買主に対する安全配慮義務
  • 山間部に当社の社宅がありますが、50度を越える斜面地を切土した平坦部にあり、建物と崖面との距離は5メートル程度です。崖崩れ危険地域に指定されており、過去二度ほど土砂崩れが起こり、役所から防災工事の勧告を受け、当社は斜面に金属ネットを張り、土留め工事を行いました。 今般、その土地建物を住居用として売却しようと思うのですが、仮に将来大規模な崩落事故が起こり、人身事故が発生したような場合、売主に責任が発生するのでしょうか。
  • 不動産売買という契約関係に立った売主には、所有権を移転し引渡しを行うといった中心的な債務の外に、様々な信義則上の義務も負担します。不動産を住居として売却するにあたっては、買主の生命、身体、財産に被害を与えないよう安全性を配慮する義務も負うのでしょうか。 土砂崩れにより買主の一家4名が生き埋めになって死亡した事件につき、大阪地判平13・2・14は次の通り判示しました。
判決内容

「本件防災工事施工当時、被告会社の代表者であった被告A及び被告Bにおいて、本件斜面地が崖崩れの危険の大きい箇所であることを認識し、崖崩れが発生した場合には、本件建物のみならず、本件建物に居住する住民の生命、身体、財産等が損害を被ることにつき、予見することは十分可能であったものと認められる。

したがって、被告会社が本件土地・建物を他人に住居として売却するにあたっては、他人の生命、身体、財産等に被害を与えないよう、可能な限り本件斜面地の安全性について調査、研究を尽くした上、十分な防災工事を行うなどして安全性を確保するための措置を講じるべき義務があるので、被告A 及び被告Bは、被告会社の代表者の職務として、被告会社に右の安全性を確保するための措置を講じさせ、もって事故の発生を防止すべき注意義務があり、右義務に違反して他人の生命、身体等に損害を被らせたときは、被告らはいずれも不法行為に基づく損害賠償義務を負うと解するのが相当である。」

その上で、売主が役所の勧告を受けて行った防災工事が不十分であったこと、本件土地建物の具体的危険性や過去に発生した土砂崩れ事故についても全く説明しなかったことを認め、売主に不法行為に基づく損害賠償責任を認めました。

04.マンション売買の際の南側隣地の説明
  • AはB社の担当者からマンション購入をすすめられ、定年退職後の住居とする目的で、新築マンションを代金4300万円で買い受ける契約をし、手付金430万円をB社に支払い、次いで中間金430万円を支払いました。B社の担当者はAに対し、個人的な見解と断りながらも、南側隣地の所有者は大蔵省なので、しばらくは何も建たないし、建てられるとしても変な建物は建たないはずである旨説明していました。
    ところが、その後、残金支払期日前に、南側隣地に11階建マンションが建築されAが購入した部分の日照が著しく妨げられることが判明したため、Aは売買契約の解除ないし契約無効を主張し、手付金、中間金の返還を求めました。一方、B社は残代金につき Aに催告し、支払いがなかったため契約解除し、約定に基づき手付金を違約金として没収し、中間金についてはAに返還しました。
    なお、本件売買契約書と重要事項説明書には「本物件を含む地域は商業地域であり、本物件周辺の現在空地となっている用地については、将来、所有者の都合その他により建築基準法その他法令の許認可を得て、中高層建物等が建築される場合があり、これに伴なう日影等の環境変化が生じること。また、現在建物が建っている用地についても同様に、将来建て替え等により日影等の環境変化が生じること」と明記されていました。又、南側隣地は大蔵省が相続税の物納により所有権取得した土地であり、上記中間金支払日から残金支払日の間に、大蔵省から大手のマンション業者に売却、移転登記されていました。 AはB社に対し、結果的に被った手付金分430万円の返還ないし損害賠償を求めるべく裁判を提起しようと思うのですが、認められるでしょうか?
  • マンションの購入を勧誘した不動産会社の担当者が、南側隣地の今後の利用等について説明した内容のトラブルが多発しております。不動産売買における売主の義務は、目的不動産を買主に移転することを中核として、様々なものに拡大します。本件の場合、告知義務違反の債務不履行責任を負うのでしょうか。東京高裁平11・9・8は類似の事例につき次の通り判示しました。
判決内容

「1、被控訴人は、不動産売買に関する専門的知識を有する株式会社であり、控訴人は、不動産売買の専門知識を有しない一般消費者であるから、被控訴人としては、控訴人に対し、売却物件である○○○○○壱番館ないし本件建物の日照・通風等に関し、正確な情報を提供する義務があり、誤った情報を提供して本件建物の購入・不購入の判断を誤らせないようにする信義則上の義務があるというべきである。

2、南側隣地は、大蔵省が相続税の物納により所有権を取得した土地であり、大蔵省が何らかの用途に供する目的で取得した土地ではないから、不動産売買に関する専門的知識を有し、右経過を知っていた被控訴人としては、南側隣地が横浜駅から至近距離にあるという立地条件と相まって、大蔵省において、早晩これを換金処分し、その購入者がその土地上に中高層マンション等を建築する可能性があることやマンション等の建築によって本件建物の日照・通風等が阻害されることがあることを当然予想できたというべきであるから○○○○○壱番館の販売にあたり、その旨営業社員に周知徹底し、営業社員をして、右のような可能性等があることを控訴人らの顧客に告知すべき義務があったというべきである。

3、しかるに、被控訴人は、営業社員に対し、右のような可能性があることを周知徹底させず、そのため、営業担当者は、かえって、控訴人に対し、個人的見解と断りながらも、南側隣地の所有者が大蔵省なので、しばらくは何も建たないし、建物が建てられるにしても変なものは建たないはずである旨説明し、控訴人をして、南側隣地に建物が建築されることはなく、本件建物の日照が確保される旨の期待を持たせて本件建物の購入を勧誘し、控訴人をして本件建物を購入させたものであるから、被控訴人には、右告知義務違反の債務不履行があったと認められる。」

その上で、買主の側にも購入にあたり慎重さを欠き、落度があったことを認め、その過失割合50パーセントを認定し、売主に対し支払済手付金額の半分にあたる215万円の支払を命じました。

05.瑕疵担保による損害賠償請求と消滅時効
  • 土地の売買、物件の引渡しがなされました。売買契約書には瑕疵担保責任については何の条文もありません。20年経過後、買主が土地上に建築をしようとした際、地下に巨大な埋設物があることが判明しました。
    買主は発見後、4ヶ月経過時点で、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求訴訟を売主に提起しようと思うのですが、認められますか。
  • 買主による瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約書に特約等がない場合、民法570条、566条3項所定の「買主が事案を知った日から1年以内」に行使出来るはずです。しかし、その時点においてすでに売買契約及び土地引渡しから20年以上経過してしまっているとしたら、消滅時効の規定の適用を受けることになってしまうのではないかが問題となります。 この点につき近時、最高判平13・11・27は次の通り判示しました。
判決内容

「買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、これが民法167条1項にいう「債権」にあたることは明らかである。

この損害賠償請求権については、買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条、566条3項)、これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、この除斥期間の定めがあることをもって、瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。さらに買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し、瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気付かない限り、買主の権利が永久に存続することになるが、これは売主に過大な負担を課するものであって適当といえない。

したがって、瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は、買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である。」

結局、本件につき消滅時効期間が経過していると判断したわけです。しかし消滅時効の援用が権利の濫用に当たるかどうかの判断が残され、その点の審理を尽させるため、原審に差し戻ししました。

06.購入マンションの近くに公衆浴場の煙突
  • マンションを居住目的で宅建業者から購入しましたが、20メートル程離れたところに公衆浴場があり、その煙突からの排煙が少しではありますが部屋に流入します。このような煙突の存在や排煙の流入につき何等売主から説明を受けませんでした。売主の債務不履行を理由に契約を解除したいと思いますが認められますか?
  • 本件のマンションの売買契約において近くの煙突の存在、排煙の流入について宅建業者である売主は買主に対し説明すべき義務を負っているのでしょうか。排煙の流入の規模、成分により考え方に差が出てくるところでしょうが、近時、大阪地判平成11・2・9は次の通り判示しました。
判決内容

「宅建業法、不動産に関する公正競争規約及び民法の信義誠実の原則から導き出される契約締結時における説明義務の対象となる事実はその契約の締結可否を判断するについて重要な影響を及ぼす事実であると解されるところ、これを本件売買契約に即して考えると、本件建物が居住用であることから、居住者の生命、身体の安全及び衛生に関する事実はそれに含まれると解されるが、それらの事実は多種多様であり、その影響の程度も千差万別である。したがって、右事実のうちから一定範囲の事実に限定して説明義務を課すべきであると考えられるところ、その基準については、通常一般人がその事実の存在を認識したなら居住用の建物としての購入を断念すると社会通念上解される事実とするのが合理的である。

本件煙突から排出される煙が本件マンションへ流入していることは認められるが、排出される煙のうちどの程度が流入しているかは不明であり、また、本件煙突から排出される煙にいかなる成分が含まれ、その量がどの程度であり、このことにより本件建物の居住者に対して、本件煙突からの排煙が健康上どのような影響を及ぼしているかも不明である。他方、本件煙突が本件マンションの南西側角から20メートル離れていること、前記のとおり常時多量の煙を排出しているわけではないこと、公衆浴場はいわゆる嫌悪施設ではなく、むしろ、利便を提供する施設という側面は否定出来ないことを併せ考えてみると、通常一般人が本件煙突が存在し、その排煙の流入の可能性についての情報を得ていないとしても、社会通念上その事実を知ったなら本件建物の購入を断念するほどの重要な事実とまでは評価できないと認められるのが相当である。」

本件では、排煙の流入量や成分につき正確な分析が出来た場合には、結論が異なる可能性があったような気がします。マンション販売にあたっての重要事項説明義務の範囲、限界を問う事例は今後ますます増加するものと思われ、目の離せないところです。

07.不動産売買契約の合意解除と留置権
  • 私は知人から土地建物を買い受け、代金全額を支払い引渡しを受けました。知人は、すぐに抵当権を抹消して私に所有権移転登記をするとのことでしたが、その後、抵当権の抹消ができないことがわかり、私達は売買契約を合意解除し、知人は1ヶ月以内に売買代金全額の返還と契約書に定めた違約金の支払いを確約しました。その直後、知人は私に土地建物をすぐに引渡してほしいと言ってきました。私としては、売買代金や違約金を支払ってもらうまで留置権を主張しようと思うのですが、可能でしょうか?
  • 民法295条は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を持っている場合に、その債権の弁済を受けるまでその物を留置する権利を認めています。売買契約が履行された後に何らかの理由で取り消されたり、解除された場合、買主は支払った代金の返還や違約金の支払いを受けるまで、その物の引渡しを拒めるのでしょうか。学説、判例ともに見解が分かれるところなのですが、近時、東京高判平15・7・31は次の通り判示しました。
判決内容

「民法295条の留置権は、他人の物の占有者が「その物に関して生じた債権」を有する場合に成立するところ、その物自体を目的とする債権である場合には、債権者は権利の内容である行為を物に対して行使することにより直接に弁済を受けることができるものであり、目的物を留置することによりその弁済を担保する問題を生じないから、「その物に関して生じた債権」ということはできない。これを本件についてみると、控訴人の A に対する原債権は、本件売買契約による本件土地建物の所有移転請求権(実質は所有権移転登記請求権)であって、本件土地建物自体を目的とする債権であるから、本件土地建物の所有権移転義務の履行を直接求めることができ、本件土地建物を留置することにより間接に本件土地建物の所有権移転義務の履行を強制するという関係にはない。そして、控訴人が主張する売買代金返還請求権は、本件土地建物自体を目的とする原債権がその態様を変じたものであり、売買代金返還請求権は本件土地建物に関して生じた債権ということはできない・・・さらに、控訴人が主張する違約金請求権は、本件土地建物から生じた債権ではなく、 A の行為(債務不履行)によって生じた債権であるから、本件土地建物に関して生じた債権ということはできない。」

この判例の立場からすると、ご質問のケースにおいても、質問者の留置権の主張は認められないことになります。公平の観点からみて、若干の疑問を感じます。別の理論権威により、質問者を救済する道が残されているように思います。

08.火災にあったことは隠れたる瑕疵に当たるか
  • 築後27年の中古建物を3千万円で購入したのですが、9年前に台所の一部が焼損する火災があり、消防車が出動したとの話を隣人から聞きました。売主や仲介業者はそのことにつき一切説明しませんでした。焼損部分は、下からのぞき込めば見える状況で、注意して見分すれば外観から発見し得るものでしたが、内覧の際には気付きませんでした。売主と仲介業者に損倍賠償請求をしようと思いますが、可能でしょうか?
  • 売買の目的物が火災にあい、焼損を受けていることが建物の瑕疵に当たるかどうか。通常の経年劣化とみることはできないか。善管注意義務を負って仲介業務にあたるべき宅建業者は、目的物の過去の火災・焼損につき調査義務を負担しているのか否か。以上の各点が争点となりますが、東京地判平成16・4・23は、類似の事案につき次の通り判示しました。
判決内容

「売買の目的物が、火災に遭ったことがあり、これにより焼損を受けているということは、通常の経年変化ではなく、その程度が無視し得ないものである場合には、通常の経年変化を超える特別の損傷等があるものとして、建物の瑕疵に当たるということができる。そして、この火災や焼損の事実を買主が知らされていなかった場合には、隠れたる瑕疵に当たることになる。・・・一般に、中古住宅の買い手としては、同じ物理的価値の複数の選択肢の一つに購買意欲を減退させる事情があるならば、それを理由とする相当の値引きがなければ、これを買い受けないのが通常であると考えられる。

中古建物である本件建物については、規模は小さくても本件火災に遭ったことがあって、その具体的痕跡が本件焼損(建物本体の一部の炭化)として残存しており、消火活動が行なわれないまでも消防車が出動した(それに伴い、火災の事実が近隣に知れ渡った)という事情・・・は、買い手の側の購買意欲を減退させ、その結果、本件建物の客観的交換価値を低下させるというのが相当である。・・・売主と買主の双方から仲介を依頼された仲介業者は、売主の提供する情報のみに頼ることなく、自ら通常の注意を尽くせば仲介物件の外観(建物内部を含む。)から認識することができる範囲で、物件の瑕疵の有無を調査して、その情報を買主に提供するべき契約上の義務を負うと解すべきである。本件焼損等は、被告会社がこれを認識している場合には、信義則上買主に告知すべき事項であるところ、被告会社は、本件焼損等を被告Aから知らされていなかったが、注意して見分すれば本件建物の外観から本件焼損の存在を認識することができたということができ、その上で被告Aに問いただせば、本件火災や消防車出動の事実も知り得たと認められる。したがって、被告会社は、本件焼損等を確認した上で、原告らに情報提供すべきであったのに、これを怠ったというのが相当である。」

09.手付放棄解除の場合、不動産仲介業者の報酬請求権
  • 不動産仲介業者に土地売却を依頼し、5億円で売買契約が成立したのですが、買主が手付金2000万円を放棄して契約解除してしまいました。仲介業者から契約が成立したので約定の報酬(3%プラス6万円)を支払うよう求められているのですが、応じなければならないのでしょうか?
  • 通常、不動産売買契約書には仲介業者に支払うべき報酬についての定めがありますが、手付金放棄により売買契約が解除された場合には、報酬合意は適用にならないのでしょうか。売主としては、手付金額の利益を取得したわけですが、何らの報酬支払義務がないとしたら公平でないようにも思われます。商法512条の報酬請求権を根拠としてこれを認めるという考え方もありえます。
    これらの争点につき、福岡高那覇支判平15・12・25は類似の事案につき次の通り判示しました。
判決内容

「一般に、仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である・・・・特に、債務不履行による解除や合意解除の場合と異なり手付金放棄による解除の場合には、売買契約締結に際して解約手付・・・・が授受されていること、すなわち、当該売買契約においては各当事者に手付放棄又は倍返しによる解約権が留保されていることは、仲介に当たった控訴人も当然認識していたはずであるから、仲介業者である控訴人としては、本件売買契約には手付放棄又は倍返しによる解除の可能性があることは念頭に置くべきであるし、控訴人にとって、そのような場合に備えて報酬の額についての特約を予め本件媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。他方、依頼者である被控訴人としては、本件媒介契約書に上記のような特約が明記されるか、契約締結に際して特に控訴人からその旨の説明を受けたという事情でもない限り、履行に着手する以前に買主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合にも仲介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常であると思われる。・・・・手付金放棄による解除の結果、履行に着手することなく売買契約が解除されればこれらの事務を行う必要がなくなることをも併せ考慮すれば、手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬額についての合意は適用されないと解するのが本件媒介契約の当事者の合理的意思に合致するというべきである。・・・・そうすると、本件媒介契約に基づいて控訴人が被控訴人に請求できる報酬の額については当事者間の合意が存在しないこととなるけれども、報酬について特約がない場合でも、仲介業者である控訴人は相当報酬額を請求できると解される(商法512条)。・・・・被控訴人は手付金放棄による解除により、本件土地の所有権を喪失することなく2000万円を取得する結果となったことその他本件に現われた一切の事情を総合考慮すると、本件で控訴人が被控訴人に請求することのできる報酬額としては1000万円・・・・をもって相当認める。」

結局、売主が利得した金額の半額を報酬として認めたわけです。なお、原審は利得した金額の3%プラス6万円の69万円あまりを認めておりました。裁判官によって判断の分かれる事例といえます。

10.民事執行法上の競売は宅地建物取引業法の売買にあたるか
  • 民事執行法の競売にたびたび参加して比較的大きな物件を競落しているのですが、知人から宅地建物取引業の免許を取得していないと法に触れると聞きました。本当でしょうか?
  • 宅地建物取引業の免許を受けない者が、民事執行法上の競売手続に参加し、競落をくり返す事例がみられます。民事執行法は、無免許宅建業者が競売手続で宅地・建物を買い受けることを特段禁止しておりません。かかる行為を多数回にわたり行った場合、宅地建物取引業法79条2号、12条1項の無免許宅地建物取引業の罪に問われるのでしょうか。宅地建物取引業法2条2号にいう宅地又は建物の「売買」に、民事執行法上の競売手続での競落行為があたるかどうかの問題です。
    一審から上告審まで弁護人が「民事執行法上の競売手続により宅地・建物を買い受ける行為は、『宅地建物取引業』の定義規定である本法2条2号にいう宅地又は建物の『売買』に当たらないから、被告人につき無免許宅地建物取引業の罪は成立しない」と一貫して主張したケースにつき、最高判平16・12・10は次の通り判示しました。
判決内容

「民事執行法上の競売手続きにより宅地又は建物を買い受ける行為は宅地建物取引業法2条2号にいう宅地又は建物の「売買」に当たるとして、被告人につき同法79条2号、12条1項の罪の成立を認めた原判断は、正当である」

素人の方で、多数回にわたり、民事執行法上の競落を行い、転売し、毎年のように大きな利益を上げているケースがみられますが、宅地建物取引業法違反の罪に問われる可能性があります。こんなことで警察のやっかいになり、刑事罰を受けることは割に合いませんので、大いに注意して下さい。

11.マンション販売における防火戸の位置、操作方法等の説明義務
  • マンションを販売し、防火戸の説明が不十分だったため延焼が拡がったケースで、販売にあたった宅建業者の責任を認めた判例が出たと聞いたのですが、教えて下さい。
  • マンションの販売代理をつとめた宅建業者が、防火戸の電源スイッチの位置、操作方法、火災発生時における防火戸の作動の仕組みについての説明を怠り、電源が切られた状態で引き渡された。又、重要事項説明書には、火災感知器と火災報告器の場所が示されていたが、防火戸の記載はなく、図面に防火戸の位置が点線で表示されていたのみであった。買主の寝室から出火し、防火戸が作動しないまま延焼の損害を被った件につき、宅建業者の防火戸の操作方法等の説明義務違反の有無が争われた。最高判平17・9・26は次の通り判示した(要旨)。
判決内容

「防火設備の一つとして重要な役割を果たし得る防火戸が室内に設置されたマンションの専有部分の販売に際し、防火戸の電源スイッチが一見してそれとは分かりにくい場所に設置され、それが切られた状態で専有部分の引き渡しがされた場合において、宅地建物取引業者が、購入希望者に対する勧誘、説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務について売主から委託を受け、売主と一体となって同事務を行っていたこと、買主は、上記業者を信頼して売買契約を締結し、上記業者から専有部分の引渡しを受けたことなど判示の事情の下においては、上記業者には、買主に対し、防火戸の電源スイッチの位置、操作方法等について説明すべき信義則上の義務がある。」

マンション販売を手がけている業者にとっては、背筋が寒くなるような判決だと思います。重要事項説明書の防火戸の説明の部分を見直す必要があります。又、具体的な説明の手順についても再確認する必要があります。

12.大雨の時に冠水しやすいのは土地の瑕疵にあたるか
  • 建売業者から土地建物を買い受けたのですが、集中豪雨のときに、床下浸水し、駐車場が冠水しました。通常の降雨では大丈夫なのですが、このような土地の欠陥は隠れたる瑕疵にあたると思うのですが、いかがでしょうか?
  • 宅地の売買において、どのような事由が民法570条の「隠れた瑕疵」にあたるかは、大変難しい問題です。大雨の時に冠水するという土地の性状が瑕疵にあたるのでしょうか。環境的要因からくる土地の性状は別との見方もありえます。この問題につき東京高判平15・9・25は次の通り判示しました。
判決内容

「売買の目的物に隠れたる瑕疵がある場合、売主は瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任を負う。ここにいう瑕疵とは、当該目的物を売買した趣旨に照らし、目的物が通常有すべき品質、性能を有するか否かの観点から判断されるべきである。そして、本件のような居住用建物の敷地の売買の場合は、その土地が通常有すべき品質、性能とは、基本的には、建物の敷地として、その存立を維持すること、すなわち、崩落、陥没等のおそれがなく、地盤として安定した支持機能を有することにあると解される。もっとも、地盤が低く、降雨等により冠水しやすいというような場所的・環境的要因からくる土地の性状も、当該土地における日常生活に不便が生じることがあるのであるから、その土地の経済的価値に影響が生じることは否定できない。しかしながら、そのような土地の性状は、周囲の土地の宅地化の程度や、土地の排水事業の進展具合など、当該土地以外の要因に左右されることが多く、日時の経過によって変化し、一定することがないのも事実である。また、そのような冠水被害は、一筆の土地だけに生じるのではなく、附近一帯に生じることが多いが、そのようなことになれば、附近一帯の土地の価格評価に、冠水被害の生じることが織り込まれることが通常である。そのような事態になれば、冠水被害があることは、価格評価の中で吸収されているのであり、それ自体を独立して、土地の瑕疵であると認めることは困難となる」

そのうえで、土地の性状などは、簡単に調べられる事柄ではないこと、冠水傾向について説明義務を基礎づける法令上の根拠や慣行もないこと等から、本件では売主たる宅建業者の説明義務違反もなかったと判示しました。

13.シックハウスによる契約解除認められる
  • 新築マンションを購入し、入居したのですが、目の痒みや咳といったシックハウスの症状がでたため、入居を断念しました。私としては、居住に支障があるので契約解除したいのですが可能でしょうか?
  • シックハウス症候群をめぐる住宅トラブルが多発している中、平成17年12月5日、東京地裁でこれを原因に売買契約の解除を認める初めての判決が下された。
    原告は、平成15年5月29日新築マンションの引渡しを受け、荷物の搬入を始めたところ、目の痒みや咳といった症状がでたため、入居を断念し、契約解除等を求め訴訟提起を行った。
判決内容

「判決は、鑑定結果を重視し、引渡当時における建物の室内空気に含有されるホルムアルデヒドの濃度は100μg/㎥(0.1mg/㎥)を相当程度超える水準であったものと推認したうえで、「本件売買契約においては、本件建物の備えるべき品質として、本件建物自体が環境物資対策基準に適合していること」が前提とされており、「住宅室内におけるホルムアルデヒド濃度を少なくとも厚生省指針値の水準に抑制すべきものとすることが推奨されていた」ことを重視し、本件建物にはその品質につき当事者が前提としていた水準に到達していないという「瑕疵」が存在するとした。

結果として、契約を締結した目的が達せられないことを肯定し、隠れた瑕疵に基づく瑕疵担保責任として「契約解除」を認め、合計金4791万0285円の損害賠償を認めた。損害の内訳は、マンション売買代金、追加費用、諸費用、ローン諸費用、管理費、修繕積立金、移転費用、ローン利息であり、慰謝料と弁護士費用については認められなかった。

シックハウス症候群に悩む被害者にとっては朗報であり、一方、住宅産業にかかわる業界にとってはショッキングな判例といえる。消費者保護への流れは止まることを知らず、今後一層加速するものと思われる。

14.眺望についての説明義務違反と契約解除
  • マンションを購入しましたが、眺望についての業者の説明が不十分でした。このことを理由に売買契約の解除を認めた事例があれば教えて下さい。
  • 「全戸オーシャンビューのリビングが自慢」とのキャッチフレーズで建築前に売り出されたマンションの三階の住戸を購入したところ、ベランダの前数メートルのところに電柱が立ち、そこから三本の送電線がベランダに沿って水平に走っていました。完成予想図にもなかった事実に驚いた買主は、売主の債務不履行(説明義務違反)による契約解除を主張しました。
判決内容

福岡地判平18・2・2は「建築前にマンションを販売する場合においては、購入希望者は現物をみることができないのであるから、売主は、購入希望者に対し、販売物件に関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があり、とりわけ、居室からの眺望をセールスポイントとしているマンションにおいては、眺望に関係する情報は重要な事項ということができるから、可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があるというべきである。そして、この説明義務が履行されなかった場合に、説明義務が履行されていれば買主において契約を締結しなかったであろうと認められるときには、買主は売主の説明義務違反(債務不履行)を理由に当該売買契約を解除することができると解すべきである。」と判示し、本件における売主の債務不履行を認め、買主の契約解除の主張を容認しました。眺望をめぐる紛争で契約解除まで認められた事例であり、重要判例に位置付けられます。

15.暴力団物件の不動産競売
  • 建物を競落したのですが、暴力団幹部の所有物件であり、以前の競落人が脅迫を受け断念したそうです。物件明細書や現況調査報告書にはこの点につき何の記載もなく、私としては売却許可決定を取り消してもらいたいと思います。認められますか?
  • 暴力団幹部の所有物件が競売に付され、建物にはその警護役が居住し、競落した買受人が所有者から脅迫を受け、買受けを断念した。執行裁判所は、その事実を認識しながら、再度の競売に際し、かかる情報を物件明細書や現況調査報告書に記載せず、事情を知らない買受人が競落しました。買受人は、売却許可決定には民事執行法71条6号、7号の事由があるとして、執行抗告に及びました。
判決内容

東京高裁平17・8・23は、「本件では、上記のとおり約一年前に当時の買受人が本件所有者からの嫌がらせによって買受けを断念しており、暴力団関係者による売却への妨害が現実のものとなったものであるから、抗告人が買受人となった本件の売却手続の実施に当たっては、物件明細書の上記任意的記載事項欄や現況調査報告書において、関係者の中に暴力団幹部がいることを追記し、本件物件を買い受けようとする者に対して予めその旨を了知させておくべきであったといわなければならない。しかるに、本件では、その手だてを何ら講ずることなく、従前の物件明細書や現況調査報告書を一般の閲覧に供する等して売却手続を進めたのであるから、物件明細書の作成及び売却手続に重大な誤りがあり、同法71条6号、7号に該当するというべきである。」と判示し、売却許可決定を取り消しました。同種事案が多く、実務に及ぼす影響は大きいものがあります。

16.不動産取引と融資した金融機関の責任
  • 金融機関から融資を受けて造成宅地を購入したのですが、建築基準法所定の接道要件を具備していないとのことで、建物の建築確認を受けられませんでした。売買契約の際に金融機関担当者も同席していた場合、担当者の接道要件不具備の説明義務違反を問うことはできないでしょうか?
  • 金融機関の従業員が顧客に融資する際に、顧客が不測の損害を被らないように配慮する義務があるといわれております。個別の取引について具体的にどこまで配慮し、説明すべきかが問題となります。宅地の取引において、接道要件は、宅建業法35条1項所定の重要事項として宅建業者が説明義務を負っており、融資する金融機関にはその義務はありません。しかし、一方において金融機関には顧客の被害を防止すべき高度の注意義務があるのではとの見方もできます。最高判平15・11・7は次の通り判示(要旨)しました。
判決内容

「金融機関の従業員が融資契約を成立させる目的で顧客に対して土地を購入するように積極的に勧誘した結果、顧客が接道要件を具備していない土地を購入した場合でも、当該従業員が接道要件不具備を認識しながら殊更に顧客に知らせなかったなど信義則上当該従業員の説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情がなく、当該土地が建物建築に法的支障の生ずる可能性の乏しい物件であったなど判示の事情の下では、当該従業員が接道要件不具備を説明しないことが法的義務違反、不法行為を構成するといえない。

本件二審判決は、金融機関の方で融資を受けて宅地を購入するよう勧誘したことを重視し、本件宅地売買契約と融資契約は一体となっているとし、金融機関担当者の説明義務違反を認め、不法行為の成立を認めました。結果的に逆転判決となったわけです。注目すべき判例といえます。

17.隣人による迷惑行為ある場合の建物売買と説明義務
  • 宅建業者ですが、売却を依頼された建物の隣人が変わった人で、売主の家族に子供がうるさいと大声で怒鳴ったり、ホースで水をかけたりといった様々なイヤがらせをくり返しています。
    購入希望者に対し、このことにつき重要事項として説明義務を負うのでしょうか?
  • 宅建業者は、宅建業法35条1項1号に、重要事項として列挙されていない事実について、どのような事項について説明義務を負うのでしょうか。ご質問と類似するケースで、大阪高判平16・12・2は次の通り判示しました。
判決内容

「宅地建物取引業法35条1項は、一定の重要な事項につき、宅地建物取引業者に説明義務を課しているが、宅地建物取引業者が説明義務を負うのは同条所定の事項に限定されるものではなく、宅地建物取引業者は、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識している場合には、該当事項について説明義務を負うと解するのが相当である(宅地建物取引業法47条1項1号参照)。

Aのように土地建物を家族とともに居住する目的で購入しようとする者が当該建物におおいて平穏に居住することを願うことは当然であるから、当該建物の隣人から迷惑行為を受ける可能性が高く、その程度も著しいなど、当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情がある場合には、そのような事情は当該建物を購入しようとする者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想されるというべきである。したがって、居住用不動産の売買の仲介を行おうとする宅地建物取引業者は、当該不動産の隣人について迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うと解するのが相当である。」

宅建業者は、物件の近隣居住者に関する調査義務を負担するわけではありません。しかし、居住用不動産を仲介するのですから、買主の居住に支障を来す客観的事実を把握したときは、すみやかにそれを買主に説明すべきだというのが結論です。

18.執行官・評価人の調査義務
  • 不動産を競落したのですが、自殺物件だったことがわかりました。現況調査報告書や評価書には何も記載されておりませんでした。売却許可決定の取消し申し立ての期間は過ぎてしまいました。調査義務違反を理由に国家賠償を求めたいのですが、勝てるでしょうか?
  • 競売手続において、執行官・評価人が必要な調査義務を尽したかどうかが問題となります。自殺物件であることを看過したことに過誤があったといえるかどうかです。福岡地判平17・9・13は同種事案につき、次の通り判示しました。
判決内容

「執行官が現況調査を行うに当たり、通常行うべき調査方法を採らず、あるいは、調査結果の十分な評価、検討を怠るなど、その調査及び判断の過程が合理性を欠き、その結果、現況調査報告書の記載内容と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合には、執行官が前記注意義務に違反したものと認められ、国は、誤った現況調査報告書の記載を信じたために損害を被った者に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の責任を負うと解するのが相当である。

・・・本件不動産内でもと所有者が自殺したことを窺わせる具体的な情報や風評に接した場合は格別、そうでない本件の場合には、A執行官において、それ以上に本件不動産が自殺物件であるか否かについて管理人あるいは近隣住民から事情を聴取すべき義務があったとはいえない。したがって、A執行官の現況調査について執行官としての注意義務違反があったとはいえない。

・・・被告Bは、A執行官と同行して現地調査に臨み、本件不動産を含む建物全体の現況を観察したほか、A執行官とともに本件不動産の内部に入り、その現況及び維持管理状況についての情報をA執行官と共通にするとともに、自身も目視して本件不動産を調査するなど、通常行うべき調査方法を採ったものであり、そうした調査の過程において、本件不動産においてもと所有者が自殺をしたことを窺わせる具体的な情報や風評に接することはなかったのであるから、評価人としてそれ以上に調査を尽くすべき義務があったとはいえないというべきである。」

執行官・評価人の調査義務違反は否定されました。国家賠償で勝訴するのはなかなか難しいものがあります。

19.土地売買とかつて存在した建物内での殺人事件
  • アパートを建築するために土地を購入しましたが、土地上にかつて存在した建物内で8年前に女性が胸を刺されて殺害され、新聞報道もされていたことがわかりました。物件に隠れた瑕疵があるので、売主に損害賠償を求めたいと思うのですが、認められますか?
  • 売買目的物にまつわる嫌悪すべき事情は民法570条にいう隠れた瑕疵に該当しますが、売買当時建物はすでに取り壊されており、8年前の事件であることからみて、心理的欠陥は相当程度風化していたと判断できるのではないかが問題となります。
    類似の事案につき大阪高判平18・12・19は次の通り判示しました。
判決内容

「本件売買の約8年以上前に女性が胸を刺されて殺害されるという本件殺人事件があったというのであり、本件売買当時本件建物は取り壊されていて、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない一空間内におけるものに変容していたとはいえるものの、上記事件は、女性が胸を刺されて殺害されるというもので、病死、事故死、自殺に比べて残虐性が大きく、通常一般人の嫌悪の度合いも相当大きいと考えられること、本件殺人事件があったことは新聞にも報道されており、本件売買から約8年以上前に発生したものとはいえ、その事件の性質からしても、本件土地付近に多数存在する住宅等の住民の記憶に少なからず残っているものと推測されるし・・・・本件土地上に新たに建物を建築しようとする者や本件土地上に新たに建築された建物を購入しようとする者が、同建物に居住した場合、殺人があったところに住んでいるとの話題や指摘が人々によってなされ、居住者の耳に届くような状態がつきまとうことも予測されうるのであって、以上によれば、本件売買の目的物である本件土地には、これらの者が上記建物を、住み心地が良くなく、居住の用に適さないと感じることに合理性があると認められる程度の、嫌悪すべき心理的欠陥がなお存在するものというべきである。」

結局、売主の瑕疵担保責任を認め、売買代金額の5パーセントにあたる75万円余りを損害額と認定しました。売主や仲介業者の説明義務にも影響を及ぼす問題であり、こうした責任はいつまで存続するのかの点を含め、今後の判例の動向を見守りたいものです。

20.不動産仲介を途中で挫折させた責任
  • 宅建業者ですが、物件購入の依頼を受け、売物件をみつけて紹介し、売主側業者と交渉し代金額も決まりました。ところが買主は、私を排除して、この物件の売主側宅建業者と直接媒介契約を結び、同金額で売買契約を締結しました。買主に対する手数料請求と売主業者に対する損害賠償請求を提訴したいのですが、認められますか?
  • 買主側宅建業者の仲介活動により売買契約が成立する状況になっていたにもかかわらず、買主が同業者を排除して、売主側宅建業者と接触して売買契約を成立させた場合、故意に買主側業者の仲介による売買契約成立を妨げたものであり、買主は民法130条により媒介契約上の報酬支払義務を負うと考えられています。このような場合、売主側業者に対しても不法行為に基づく損害賠償請求を成しうるのでしょうか。
    この点につき、横浜地判平18・2・1は次の通り判示しました。
判決内容

買主に対する手数料請求については、「被告甲野両名は、原告の仲介活動によりまもなく売買契約が成立する状態になったにもかかわらず、原告を排除して被告会社の仲介により本件物件の売買契約を成立させたということができ、故意に原告の仲介による本件物件の売買契約の成立を妨げたものであるから、民法130条により本件媒介契約上の報酬支払義務を負うというべきである。」と判示しました。

売主側業者に対する損害賠償請求については、「被告会社は、原告が被告甲野両名と媒介契約を締結して本件物件の売買契約を仲介している事情を十分知り得たのに重大な過失により、本件売買契約解消の事実を原告に確認することなく、被告甲野両名と媒介契約を締結して自己の媒介により本件物件の売買契約を成立させた結果、原告の仲介を途中で挫折させ、原告の被告甲野両名に対する仲介報酬請求権を侵害したというべきであり、被告会社の行為は、自由競争の範囲を大幅に逸脱し、取引上の信義則に著しく反するものであって、原告に対する不法行為を構成するというべきである。」と判示しました。

売主側業者の不法行為を認定した珍しい判例であり、実務上重要な事例といえるでしょう。

21.自殺物件購入の損害賠償額の算出
  • 私は、不動産業者から代金1億7500万円で、9階建マンション一棟を購入しました。ところが、2年前にマンション居住者が飛び降り自殺していたことが判明し、売主は、それを知りながら事実を告げずに私に売却したことがわかりました。損害賠償を請求したいのですが、損害はどのように計算したらよいのでしょうか?
  • マンション一棟を販売した不動産業者には、そのマンションで2年前に飛び降り自殺があったことを知っていたとしたら、その事実を告知・説明すべき義務があります。それを怠った場合、買主が被った損害として、自殺物件としての価格減、賃料収入の減収、利回りの低下、慰謝料等が予想されますが、どのように算出すべきなのか、あるいは、立証が極めて困難なものとして民事訴訟法248条によるべきかといった点が問題となります。
    こうした点につき、近時、東京地判平20.4.28は次の通りの見解を示しました。
判決内容

「本件不動産の現実の購入価格である1億7500万円について、自殺物件であることによる減価を25%とし、東京都の所轄部署が自殺物件の場合、売買において5年間程度告知するよう指導していたことを考慮し、5年間定額法により減額要因が逓減していくとみて、本件売買契約締結時である2年経過後の減価額を1750万円と判断しました。

(算式)

1億7500万円×0.25÷5×2=1750万円

その上で、「現実にも、予定したよりも3年間では540万円の減収となることが予想されること、本件証拠によって認められる原告の精神的苦痛の程度、しかし、これは、経済的観点からの損害の填補により相当程度軽減される性質のものであると考えられることなど、本件に顕れた諸事情を総合考慮すると、民事訴訟法248条の趣旨に鑑み、本件告知、説明義務違反と相当因果関係が認められる原告の損害額は、2500万円と評価するのが相当であると判断する。」と判示しました。

東京都の所轄部署の指導を重視し、自殺があったという風評による減価は、時の経過とともに風化していくことを認め、売買の場合5年間という期間を明示したことに実務上大きな意味があると思います。

結局、賃貸借契約の特約に基づく請求が認められました。契約締結に際しての正確な特約記載の重要性が再確認されたわけです。

22.建物の物理的瑕疵と仲介業者の注意義務
  • 居住目的で古家を購入しましたが、白アリ被害や柱の腐食、雨漏り箇所が多数あり、居住に適さない状況です。仲介業者に問いただしたところ、現状有姿売買で、売主が瑕疵担保を負わない売買であり、建物価格を全く考慮しなかったのだから仕方がないと言われました。仲介業者は、ひどい状況であることを認識していながら説明しなかったといっています。仲介業者に責任はないのでしょうか?
  • 仲介業者は、居住目的で不動産を購入する買主に対し、建物の物理的瑕疵によってその目的が実現できない可能性がある場合には、積極的にその事を告知すべき業務上の注意義務があるといわれております。居住に適さないひどい状況にあることを認識しながら買主への説明を怠った事例に関し、大阪地裁平20・5・20は次の通り判示しました。
判決内容

「本件の場合、原告は、本件建物に居住する目的で本件契約を締結することとしたのであるから、その前提として、本件建物が居住に適した性状、機能を備えているか否かを判断する必要があるところ、被告代表者も、原告の上記目的を認識していたのであるから、本件建物の物理的瑕疵によってその目的が実現できない可能性を示唆する情報を認識している場合には、原告に対し、積極的にその旨を告知すべき業務上の一般的注意義務を負う・・・・本件不動産の価格設定の際、本件建物の価格は全く考慮されておらず、現状有姿で売主が瑕疵担保責任を負わない取引であったとしても、被告代表者が原告の上記目的を認識していた以上、上記結論は変わらない。・・・・以上の諸事情を考慮すると、被告代表者は、原告に対し、白アリらしき虫の死骸を発見したこと、1階和室以外にも腐食部分があること、雨漏りの箇所が複数あることなどを説明し、原告に更なる調査を尽くすよう促す業務上の一般的注意義務を負っていたというべきであるが、実際には、そのような注意義務を尽くさなかった。」

結局、このケースでは、仲介した宅建業者に700万円あまりの損害賠償が命じられました。

23.大気を媒介して汚染物質が飛来することは土地の瑕疵にあたるか
  • 居住用建物の敷地を購入しましたが、近隣の一般廃棄物処理施設から大気を媒介してダイオキシン類が飛来する日があります。ダイオキシン類の測定結果は基準値以下なのですが、日によってこのように飛来すること自体が、土地の瑕疵にあたるといえるのではないでしょうか。売主の瑕疵担保責任を追及したいと思いますが、認められますか?
  • 建物の敷地に対し、近隣施設からの飛来物質による環境汚染がある場合、土地に瑕疵ある場合にあたるのかが問題となります。基準値以下だったことがポイントとなりますが、近時、横浜地裁小田原支部平20・3・25は類似の事案につき、次の通り判示しました。
判決内容

「特定施設から有害物質が排出され、それが大気を媒介して到達するような場合には、風の有無、その強弱、風向、降雨の有無、降雨量等といった気象条件の変動によって、日々の到達の程度が変動するものであり、さらに、汚染の原因が近隣の一般廃棄物処理施設によるものであるときは、焼却される一般廃棄物の量及び質、焼却時間、当該処理施設の設備や運営の改善の進展具合などによっても変動するものである。そうしてみると、近隣の一般廃棄物処理施設から排出されたダイオキシン類等が、大気を媒介にして、当該土地やその周辺環境に到達していることがあったとしても、当該土地以外の要因に左右されることが多く、日時の経過によって変化し、一定するところがないのも事実であり、汚染があるとしてもそれが当該土地やその周辺に常時、恒久的に存在するものとはいえない。したがって、近隣の一般廃棄物処理施設から大気を媒介してダイオキシン類等が飛来すること自体が土地の通常有するべき品質、性能を有していない場合に該当するということは困難であり、土地の瑕疵であると認めることはできない。」

結局、本件のケースにおいて、売主の瑕疵担保責任は否定されました。土地が人体に影響を及ぼすほどの有害物質で汚染されているような場合は、当然のことながら売主の責任が発生します。

24.ふっ素による土壌汚染と瑕疵
  • 土地を購入したのですが、土壌にふっ素が基準値を超えて含まれていました。売主は、ふっ素についての環境基準が告示された時点(平成13年3月)、ふっ素が土壌汚染対策法に規定する特定有害物質と定められた時点(平成15年2月)より前の売買取引であり、当時、売主買主ともふっ素により健康被害があるということは認識していなかったのだから、土地の瑕疵にはあたらないと主張しています。正しい主張なのでしょうか。
判決内容

土地の土壌に人の健康を損なう危険のある有害物質が限度を超えて含まれていたことは、原則として土地の瑕疵にあたります。しかし、売買契約時に、ある物質が土壌に含まれることに起因して健康被害が発生するおそれが認識されておらず、法規制も全く行われていなかった場合はどうなのでしょう。

ふっ素の事例につき、近時、最高判平22・6・1は、次の通り判示しました。

「本件売買契約締結時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。・・・本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。」

土壌汚染をめぐるトラブルが増えております。瑕疵担保責任をめぐる同類事例の先例となる重要判例といえましょう。

25.契約締結にあたっての説明義務違反
  • 契約締結にあたり、勧誘側が虚偽の説明をしたために、当事者の一方が損害を被った場合、その損害賠償請求の性質は不法行為なのでしょうか、債務不履行なのでしょうか。
  • 不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間で時効消滅してしまいます。3年以上たってしまった場合の手段として債務不履行責任の可否が問題となります。契約締結段階における説明義務の法的性質については、契約締結前に認められる義務であるから不法行為にはあたるが、債務不履行にあたらないとの見解があります。
    近時、大阪地判平21・8・31は、次の通り判示し、債務不履行にもあたるとの立場を明示しました。
判決内容

「契約の締結に先立ち被告の財務状態を適切に説明すべき義務は、信義則を基礎とし、契約締結に向けて交渉している当事者間において認められるものである。契約は、通常、当事者間において契約の締結に向けての交渉過程を経て、契約の締結に至り、履行へと進むものであるが、この間、当事者間の法律関係を規律する基礎となるのは信義則であって、信義則に基づき、本件のような説明義務のほか、契約交渉が一定の段階に達すると一方的に契約を打ち切ってはならない義務、相手方の安全に配慮すべき義務などの契約に付随する義務が生じると解される。こうした義務は、契約交渉の開始から履行の完了までの一連の契約過程において認められるものであり、契約締結前であっても、一種の契約関係にあることから生じるものであるといえる。もともと不法行為は、交通事故に代表されるように、社会生活上の一般的な注意義務に違反した場合に成立するものであるのに対し、本件のような契約交渉過程における説明義務違反は、契約締結に至る過程での当事者間における問題であって、むしろ債務不履行と親和性を有しているとみることができる。契約責任は契約締結後にしか生じないというのは実態を反映したものとはいえず、形式的にすぎるといえる。以上からすると、本件出資契約の締結にあたっての説明義務違反は債務不履行を構成するということができる。」

26.商法526条の適用の排除
  • 当社は、マンション建設用の土地を取得しましたが、地中障害や土壌汚染が心配でしたので、「本件土地引渡後といえども、廃材等の地中障害や土壌汚染等が発見され、買主が本件土地上において行う事業に基づく建築請負契約等の範囲を超える損害(30万円以上)及びそれに伴う工事期間の延長等による損害(30万円以上)が生じた場合は、売主の責任と負担において速やかに対処しなければならない。」との特約をかわしました。1年後に建設に先立ち土壌調査を行い、六価クロム、鉛の汚染が判明したので、売主の会社に対処を求めたところ、商法526条1項の6ヵ月をすぎているので売主に責任はないと抗弁されました。売主の言い分は正しいのでしょうか。
  • 商法526条1項2項は、商人間の売買における特則として、買主に目的物受領後の検査通知義務を課しております。これを怠った場合には、民法規定の瑕疵担保責任の追及ができなくなります。本件特約により商法526条の買主の検査通知義務につきこれを排除する効力があるのかどうかが問題となります。
    東京地判平23・1・20は、類似の事案につき次の通り判示しました。
判決内容

「本件特約1は、原告が本件土地にマンションを建設することを前提として、その建設に先立ち、改めて原告による土壌調査が実施されることを想定し、その結果、基準値を上回る土壌汚染等が発見され、原告が損害を被った場合の被告の責任を規定したものであり、商法526条の検査通知義務を前提としないものと解される。このように解することは、土壌汚染については法の規制があり、瑕疵(土壌汚染)をそのままにして別の買主に売却することは事実上不可能であること、土壌汚染の場合には、汚染物質が地表からの目視等によっては発見できないことが多いこと、土壌汚染の調査には、費用と時間がかかり、引渡後6ヵ月以内に検査すべきことを義務づけることは買主に苛酷であること、本件売買契約において売主である被告に土壌調査義務を課していること、買主である原告は商人であるとしても土壌汚染について専門知識を有しないことに照らすと合理的である。以上によれば、本件売買契約において、被告による上記2回の土壌調査に引き続いて原告が本件土地受領後に「遅滞なく」(商法526条1項)土壌調査を行うことは、そもそも原被告間において想定されておらず、同条の適用は本件特約1により排除されていたと解するのが相当である。」

土地の売買契約に際し、特約にどのような内容をもり込むべきかが重要となります。瑕疵担保責任、土壌汚染は最もトラブルの多いところです。大いに気をつけてください。

27.性風俗特殊営業と建物の瑕疵
  • 中古マンションを2600万円で購入しましたが、前入居者が長期間にわたり性風俗特殊営業に使用していた物件であることが判明しました。妻はこの事実を知り心因反応となり、不快感を解消するため長期間心療内科での治療を余儀なくされました。売主と仲介業者に対し、損害賠償を請求したいのですが、認められますか。
  • 建物自体に物理的な支障がなくても、その使用につき不安や懸念を感じ心理的圧迫を受ける場合も、建物の瑕疵と認められる可能性があります。長期間にわたり性風俗特殊営業に使用された物件の場合が、これにあたるのかどうかがポイントです。
    近時、福岡高判平23・3・8は、次の通り判示しました。
判決内容

「本件居室が前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、本件居室を買った者がこれを使用することにより通常人として耐え難い程度の心理的負担を負うというべき事情に当たる(現に、一審原告の妻はこの事実を知ったことから心因反応となり、長期間にわたり心療内科の治療を受けたほか、一審原告及びその妻はいまだに本件居室が穢れているとの感覚を抱いている。)。そして、住居としてマンションの一室を購入する一般人のうちには、このような物件を好んで購入しようとはしない者が少なからず存在するものと考えられるから・・・本件居室が前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、そのような事実がない場合に比して本件居室の売買代金を下落させる(財産的価値を減少させる)事情というべきである。・・・したがって、本件居室が前入居者によって相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことは、民法570条にいう瑕疵に当たるというべきである。」

そのうえで、売主には瑕疵担保責任による損害賠償として、仲介業者には債務不履行による損害賠償として、連帯して100万円の損害賠償の支払を命じました。

28.賃借権の消滅と履行の着手
  • 不動産売買契約を締結し、引渡時までに担保権や賃借権、その他買主の完全な所有権行使を阻害する一切の負担を消除するとの特約に従い、物件の賃貸借契約を解除して賃借権を消滅させました。ところがその後に買主から手付放棄解除の通知が届きました。このような解除は認められないと思うのですが、いかがでしょう。
  • 買主による手付放棄解除の意思表示がなされた時点で、売主が現に契約の履行に着手していたか否かが問われます。賃借権などを消除して占有権を排除したことが、売主の契約の履行の着手といえるかどうかです。
    東京地判平21・10・16は、次の通り判示しました。
判決内容

「売買契約における買主からの手付解除について、民法557条1項は当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄して契約の解除をすることができると定めているところ、同項にいう「履行に着手」とは、「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供に欠くことのできない前提行為をした場合を指す」と解するのが相当である。・・・原告は、本件売買契約における合意に基づき、本件物件に対する抵当権等の担保権及び賃借権等の用益権その他被告の完全な所有権の行使を阻害する一切の負担を消除する義務を負担していたところ・・・売買契約の売主による「契約の履行」(民法557条1項)とは、目的物の引渡しや登記の移転という点に限られず、契約によって負担した債務の履行というと解すべきであるから、本件賃貸借契約を解除して本件物件に関するB社の賃借権を消滅させることも、原告による本件売買契約の履行といえると解される。」

結局、手付放棄解除は認められませんでした。

宅建業者として、把握しておくべき重要判例の一つといえるでしょう。

29.売買物件内での自殺と損失売主負担の特約
  • 賃借用共同住宅の売買契約を締結し、代金決済引渡しを終えました。ところが、引渡しの数日前に入居者が自殺していたことが判明しました。「引き渡し前に火災、地震等の不可抗力により滅失または毀損した場合は、その損失は売主の負担とする」との約定がありますので、物件の価値減少額について補償を求めたいと思いますが、認められますか。
  • 本件約定にいう毀損は、物理的な毀損に限定されるのか否か、いわゆる心理的瑕疵も含まれるのか、土地建物の価値減少があるとしたら、その金額はどのように算出されるべきかが問題となります。
    近時、横浜地判平22・1・28は、前段の問題点につき次の通り判示しました。
判決内容

「本件条項は、民法534条1項の定める債権者主義を修正し、本件土地建物の引渡しに至るまでは、危険負担を被告の負担とする債務者主義による旨の規定と解すべきであって、「火災、地震等」とあるのも物理的滅失や毀損に限定する趣旨ではなく、本件自殺のような本件土地建物の品質や交換価値を減少させる場合を含むと解するのが相当である。・・・本件自殺は、本件建物に対して、通常人であれば心理的に嫌悪すべき事由を付加するものであって、本件建物に対する有効需要はこのような心理的瑕疵によって減少することとなる。そして、かかる心理的瑕疵は、本件自殺と同時に本件建物に付加され、毀損として生じると解するのが相当である。」

そのうえで、価値減少額の算出方法については、「本件における鑑定の結果は、本件売買契約の代金のうち、本件土地の代金を5190万円、本件建物の代金を3490万円(消費税含む。)とした上で、本件建物について、本件自殺による有効需要の減少を本件居室に限定し、本件居室の本件建物に対する効用割合を10.71パーセント、減価率を50パーセントとして減価を算出する一方、本件土地について、本件建物の耐用年数である24年経過後は減価がなくなるものとして年率5パーセントによる複利現価を認めて減価を算出し、全体の減価率を4.36パーセントとしたのであって、その減価に関する考え方及び算出方法は、本件において妥当なものというべきである。」と判示し、自殺による賃料減収の影響は2年程度に限られるとの被告の主張を採用しませんでした。結果的に鑑定結果に従い、381万0520円を価値減少額と認定しました。

30.土壌汚染が自然的原因による場合
  • 当社の食品工場だった土地を売却しましたが、契約書に「売主は、本物件が特定有害物質を使用しない食品工場であり、事業主由来の土壌汚染が存在しえないことを理由に土壌汚染の調査をおこなわず、土壌汚染の調査は、買主の負担により実施するものとする。」「土壌汚染調査の結果、環境省の環境基準および自治体に指導基準があるときにはその基準を上回る土壌汚染があった場合は、買主は汚染の範囲およびかかる費用を売主に明示し、売主は土壌改良もしくは除去の費用を買主に支払うものとし、買主は自ら土壌改良もしくは除去をおこなうものとする。」と定めました。その後、買主の調査で10地点のうち1地点から土壌汚染対策法に定める特定有害物質である砒素が、環境基準を若干超える値で検出されました。買主から汚染除去費用を請求されていますが、砒素による汚染はもっぱら自然的原因によるものと思われ、当社には汚染処理費用を負担する必要はないと思うのですがいかがでしょう。
  • 不動産売買につき、後から判明した土壌汚染をめぐって紛争が多発しています。本件で、砒素による汚染原因が仮に自然的原因によるものであるとしたら約定の適用はどうなるのでしょう。
    この点につき、近時、東京地判平23・7・11は、次の通り判示しました。
判決内容

「環境基本法に基づいて環境省が定めた土壌汚染に係る環境基準においては、汚染がもっぱら自然的原因によることが明らかと認められる場所に係る土壌については、環境基準を適用しないこととしている。・・・上記契約条項は、自然的原因による場合に環境基準を適用しないこととしている環境基準と同じ趣旨で環境基準を引用しているものと解するのが法令に照らして自然な解釈である。そして、土壌汚染が専ら自然的原因による場合は、環境基準が適用されないのであるから、契約解釈にあたっても、この場合は、契約条項において被告が汚染処理費用を負担する原因として定められた「環境省の環境基準を上回る土壌汚染があった場合」に含まれないと解するのが、当事者の合理的な意思解釈である。」

結局、買主に汚染処理費用の負担をしなくてよいと判示した注目すべき判例であり、実務上大きな意味を有しております。

31.土壌汚染についての免責特約の効力
  • 弊社は、指定調査機関で土壌汚染の調査を行ない、汚染がないとの報告を受けたうえで、工場跡地の売買契約を締結しました。その際、将来、土壌汚染が発見された場合も瑕疵担保責任を含め一切の責任を負わない旨の免責特約を交わしました。こうした特約が無効となるようなことはあるのでしょうか。
  • 工場跡地の売買については、現況有姿のままの売買であることを確認し、売主はいかなる場合も瑕疵担保責任を負わないものとし、さらに、「将来において土壌又は地下水に汚染が発見された場合であっても、理由の如何を問わず、売主は、その瑕疵担保責任を含め、一切の責任を負わないものとする」といった免責特約が取り交わされることがあります。こうした免責特約の効力につき、売主に汚染につき悪意、重大な過失のある場合には、民法572条の類推適用により、その効力が否定される可能性があります。
    近時、東京地判平24・9・25は、六価クロムが使用されていた工場跡地につき、売主において、土壌汚染調査を実施し、六価クロムが検出されなかったとの報告のもとに免責特約付で売買を行った事案について、売主の悪意、重大な過失の有無につき、次の通り判示しました。
判決内容

「被告が、本件契約締結時に、本件汚染が生じていたことを認識していたことを直接裏付ける証拠はなく、・・・本件土地上の工場において、かつて、六価クロムが使用されていたという事実と本件土地に本件汚染が存在しているということは別個の事実である、土地上の工場で六価クロムが使用されていれば、土地中に六価クロムが存在するのが一般的であるとの経験則が存在するとは認められない。・・・被告は、本件契約締結に先立って、本件土地の土壌調査を行っており、しかもその方法は、土壌汚染対策法の指定調査機関であるDOWAに対して、土壌汚染対策法や東京都環境確保条例に準拠した方法によって行うように指示したものであるところ、この土壌調査の結果、本件土地からは、基準値を超える六価クロムは検出されなかったのであるから、被告がかつて本件土地上において六価クロムを使用していたことがあるからといって、本件汚染を認識していなかったことについて、被告に悪意と同視すべき重大な過失があったとは認められない。」

結局、本件免責特約の効力が認められ、売主の瑕疵担保責任は否定されました。

32.火災事故と土地の瑕疵
  • 火災事故があり焼死者も出た建物を取り壊しし、4年後に土地上に新築マンションを建て分譲を開始しました。買主が近隣住民から情報を入手し、本件土地には隠れた瑕疵があるとか、売主は事故の告知義務があるとの苦情を言ってきました。買主の主張は認められるのでしょうか。
  • 火災事故のあった建物を取り壊した場合、その後に新築された建物と土地を購入した買主にとって、過去の火災が土地にまつわる心理的欠陥といえるのかという問題です。土地上で生じたことが殺人や自殺と異なる点がポイントです。
    東京地判平22・3・8は、類似事例につき次の通り判示しました。
判決内容

「本件土地上にあった出火建物で焼死者が出たし、近隣住民には、このような事実の記憶がなお残っているのだから、これを買受ける者が皆無であるとはいえないにしても、買受けに抵抗感を抱く者が相当数あるであろうことは容易に推測しうるところである。・・・本件土地上あるいはこの上に新たに建築される建物が居住の用に適さないと考えることや、それを原因として購入を避けようとする者の行動を不合理なものと断じることはできず、本件土地上にあった建物内において焼死者が発生したことも、本件売買契約の目的物である土地にまつわる心理的欠陥であるというべきことになる。本件土地で生じたのが殺人や自殺でないことは、Yが主張するとおりであるが、焼死などの不慮の事故死は、一般に病死や老衰などの自然死とは異なって理解されるから、生じたのが事故死であるからといって、瑕疵の程度問題の考慮要素にとどまるものであり、従前争われたケースの多くが自殺又は他殺の類型であることも、上記判断を左右しない。そうすると、本件売買契約の目的物である本件土地には、民法570条にいう「隠れた瑕疵」があると認められるし、これを認識していた売主には、信義則上、これを告知すべき義務があったことになるから、Xは、売主であり上記事実を認識していたYに対し、これに基づく損害賠償を請求しうることになる。」

結局、目的物の減価分の損害賠償が認められました。

33.確定実測図の交付と売買代金の支払とは同時履行の関係にあるか
  • 現状有姿、公簿面積による売買、実測も不要ということで土地の売買契約を締結しましたが、買主から確定実測図を交付してほしい、測量費用は買主の方で負担するといった要望が出され、確定実測図の交付について、売買代金の受領と同時に行うことは明示せずに特約に付記しました。代金決済日に確定実測図の交付が間に合わなかったのですが、引渡し、移転登記の準備ができましたので、代金の支払を求めました。買主は、確定実測図の交付がないので、売買代金の支払はしないと言っております。この主張は正しいのでしょうか。
  • 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができます(民法533条)。但し、それらの債務が対価的な意義をもたない場合には、同時履行の抗弁は成立しないと解されています。本件において確定実測図の交付と売買代金の支払義務とは同時履行の関係にあるといえるのでしょうか。近時、類似の事案で東京地判平25・6・18は次の通り判示しました。
判決内容

「本件売買契約は、交渉開始当初から、登記簿上の面積を基準とし、現状有姿で引き渡すことが売買の内容とされていたので、当初は、測量を行うことは予定されておらず、本件確定実測図の交付義務は、本件売買契約書が作成される段階で、被告の要望を受けて初めて追加された条項であって、しかも、本件確定実測図等の交付に要する測量費用等は、売主の負担とされるのが通常であるにもかかわらず、買主である被告の負担とする旨が定められている。そして、本件売買契約書上も、本件不動産の所有権の移転時期については、本件売買代金の受領と同時に行われるべきことが明示されているのに対し、本件確定実測図等の交付については、本件売買代金の受領と同時に行われるべきことが明示されていない。以上の本件売買契約の締結に至る経緯及び本件売買契約書の文言からすれば、本件確定実測図の交付義務は、代金支払義務と対価的な関係にたつ債務であると評価することはできない。・・・したがって、本件確定実測図等の交付義務と本件売買代金の支払義務が同時履行の関係にあるということはできないというべきである。」

本件の特殊な事情のもとでの判断であり、一般論として同時履行の関係にはないものと断定したものではないように思われます。

34.土地区画整理事業の施行地区内の土地の買主に売買後に賦課金が課された場合、売主は瑕疵担保責任を負うか
  • 土地区画整理事業の施行地区内の土地を購入したのですが、売買後に土地区画整理組合から賦課金を課され損害を被りました。売主に対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めたいのですが、認められますか。
  • 売買当時既に売主が賦課金納付義務を負っていた場合は、所有権の移転に伴い同義務が買主に移転することになるため(土地区画整理法26条1項)、売主の瑕疵担保責任を肯定することが可能となります。売買当時に、賦課金を課される可能性が具体化していたかがポイントになります。
    最判平25・3・22は、賦課金の可能性につき、具体性を帯びていなかったケースにつき、次の通り判示しました。
判決内容

「本件各売買の当時においては、賦課金を課される可能性が具体性を帯びていたとはいえず、その可能性は飽くまで一般的・抽象的なものにとどまっていたことは明らかである。そして、土地区画整理法の規定によれば、土地区画整理組合が施行する土地区画整理事業の施行地区内の土地について所有権を取得した者は、全てその組合の組合員とされるところ(同法25条1項)、土地区画整理組合は、その事業に要する経費に充てるため、組合員に賦課金を課することができるとされているのであって(同法40条1項)、上記土地の売買においては、買主が売買後に土地区画整理組合から賦課金を課される一般的・抽象的可能性は、常に存在しているものである。したがって、本件各売買の当時、被上告人らが賦課金を課される可能性が存在していたことをもって、本件各土地が本件各売買において予定されていた品質・性能を欠いていたということはできず、本件各土地に民法570条にいう瑕疵があるということはできない。」

35.20数年前の自殺と宅建業者の説明義務
  • 更地の売買を仲介するのですが、20数年前に土地上の建物内で自殺があったとのことですが、建物が取り壊されていることですので、買主には説明せずに話を進めようと思うのですが、問題がありますか。
  • 宅建業者としては、取扱物件内での自殺が20年以上前の出来事であり、又その建物も取り壊されて相当前より更地となっている場合、買主に対して説明義務を負わないのではないかとの判断に思いを強くすると思われます。しかし、松山地判平25・11・7は、次の通り判示しました。
判決内容

「被告の担当者であるAは、遅くとも本件代金決済・・・の数日前には、同業の者と本件土地について話す中で、本件土地がいわゆる訳あり物件であるかもしれないとの疑いを抱いたこと、そこで、A及びBにおいて確認をし、本件代金決済の前には、20年以上前に本件土地上に建っていた建物(本件建物)で自殺事故があったらしいとの認識に至ったことが認められる。・・・本件土地上で過去に自殺があったとの事実は、本件売買契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実であるとともに、締結してしまった売買契約につき、その効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実でもあるといえる。したがって、宅地建物取引業者として本件売買を仲介した被告としては、本件売買契約締結後であっても、このような重要な事実を認識するに至った以上、代金決済や引渡手続が完了してしまう前に、これを売買当事者である原告に説明すべき義務があったといえる(宅地建物取引業法47条1項1号ニ)。」 結局、宅建業者の不法行為責任を認め慰謝料の支払を命じました。この判例は控訴審、高松高判平26・6・19でも維持されました。宅建業者として把握しておかなければならない重要判例といえます。

36.売買物件での強盗殺人事件の不告知
  • 土地建物を購入しましたが、建物内で7年前に強盗殺人事件が発生し、犯人が未だ検挙されていないことがわかりました。被害者の子である売主は、この事情を隠して売買に及びました。売主に損害賠償を求めたいのですが、何を基準にしたらよいのでしょうか。
  • 取引不動産において強盗殺人事件があったことを隠していた場合、売主に契約上の告知義務違反を認め不法行為責任が認められることになります。神戸地裁平28・7・29は、次の通り判示しています。
判決内容

「売買対象の不動産について強盗殺人事件が発生しているか否かという情報は、社会通念上、売買価格に相当の影響を与え、ひいては売買契約の成否・内容を左右するものである。被告は、本件事件の被害者の子であるから、・・・本件売買契約当時、本件事件の存在を十分承知していたと認められる。それゆえ、被告は、Aに対し、本件売買契約を締結するに際して、本件事件を告知すべき義務を負っていたというべきである。本件において、告知義務の存在を否定すべき事情を認めるに足りる証拠はない。したがって、被告が本件事件を告知しなかったことは、原告に対する不法行為に該当する。」 そのうえで買主の被った損害について、売買代金額と本件不動産に関して過去に強盗殺人事件が発生していることを前提にした市場価格の差額と弁護士費用を加えた金額を損害賠償として認定しました。

37.17年前の火災事故と説明義務違反
  • 土地の売買契約をしたのですが、17年前に土地上の建物の火災事故があり死者がでていたことが後日判明し、買主から、売主と仲介業者に対し調査義務、説明義務違反があったと主張されています。売主も仲介業者も、以前の所有者の代の事故であり全く知りませんでした。売主側に責任があるのでしょうか。
  • 売買対象となった土地につき、過去に忌み避けられるべき事件、事故があった場合、売主や仲介業者に調査義務、説明義務違反があったのではないかが問題となります。経過年数、対象建物の取り壊しの有無がポイントとなります。類似の事案につき、東京地判平26・8・7は次の通り判示しました。
判決内容

「本件土地上に存在した建物で本件火災事故が発生し死者が出たという事実は、本件売買契約締結当時においては、相当程度風化され希釈化されていたものであって、合理的にもはや一般人が忌避感を抱くであろうと考え得る程度のものではなかったと認められるものである。これに加え、Bは、本件売買契約締結当時、本件土地上に平成6年3月当時に存在した建物において本件火災事故が発生したこと及び本件火災事故により死者が発生したことを知らなかったこと、本件土地上に存在した同建物で本件火災事故が発生したのは本件売買契約を締結した平成23年12月22日から既に17年以上も前の出来事であること、本件火災事故が発生した建物は本件火災事故の直後に取り壊され、本件売買契約締結当時において本件土地は駐車場として使用されていたこと、Bから本件土地を購入したA自身も平成25年7月頃まで本件火災事故の存在を知らなかったことが認められることからすると、本件売買契約当時において、本件土地の売主であるB及び仲介業者であるCは、通常の取引経過において、本件火災事故の存在及び本件火災事故により死者が発生した事実を知り得たということはできず、また、上記事実の存否につき調査すべきであったともいえない。」

38.条例違反と消費者契約法4条2項による取消
  • 建売業者から住宅を購入しましたが、業者が市の風致地区内建築等規制条例に基づく許可を申請し、芝を貼るなどして条例の定める緑化率を達成し、行為完了届を提出した後、芝を撤去してデッキテラスを設置し、緑化率を充足しないまま、私に条例違反の事実を告げずに売却した事実がわかりました。消費者契約法4条2項による取消を主張したいのですが認められますか。
  • 消費者契約法4条2項は「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実・・・を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」と定めています。類似の事案につき名古屋高判平30.5.30は次の通り判示し同法による取消を認めました。
判決内容

「被控訴人は、建売住宅の販売等を目的とする会社であるところ、被控訴人自身が平成26年7月7日に名古屋市風致地区条例2条1項に基づく許可を申請し、同月10日にその許可を受け、その後、本件デッキテラスが設置された部分を含めて芝を貼るなどし、同年12月18日、同条例施行細則6条1項に基づき行為完了届を提出したが、その後まもなく本件デッキテラスを設置するため、当該部分の芝を撤去し、そのために上記条例の要求する緑化率を充足しなくなったにもかかわらず、他の部分で緑化面積を確保することのないまま、平成27年1月10日に本件不動産の販売を開始したというのである。このような事実経過に照らせば、特段の事情のない限り、被控訴人は、上記条例違反の事実を認識しており、かつ、購入希望の消費者が条例違反の事実を認識していないことを知りながら、条例違反の事実を告げなかったものと推認するのが相当であり・・・控訴人は、本件不動産が緑化率の不足により名古屋氏風致地区条例に違反する状態にあるという事実が存在しないとの誤認がなければ本件売買契約と同一の条件でその申込みをしたとは考えにくい。そうすると、控訴人は、消費者契約法4条2項本文を根拠に、本件売買契約を取り消すことができるところ」建売住宅の売買について、消費者契約法4条2項による取消が認められた珍しい事例です。

39.中古ビル売買における設備の瑕疵
  • 中古ビルを売買し、経年劣化や諸設備の性能低下についても責任を負わない、後日、損害賠償等の異議を述べない、との特約を結んだのですが、買主から、昭和58年製の非常用電源設備のメンテナンスが不十分で、部品の交換やオーバーホールが必要な状態なので瑕疵があると主張されています。売主に責任があるのでしょうか。
  • 新築から長期間成果したビルの売買において、付帯する設備の経年劣化、性能低下をめぐるトラブルが絶えません。特約に詳細に記載して紛争を回避すべきなのですが、それが不十分だったときは裁判に発展します。類似のケースにつき、東京地判平26・7・25は次の通り判示しています。
判決内容

「本件設備に瑕疵があるか否かを検討するに、本件設備の自家用発電設備は昭和58年製の相当古いものであることからすると、本件設備に経年劣化が生じており、メンテナンスが必要な状態にあることが通常であり、現況を調査する機会があったAもこのことを認識できたとうかがわれること、現に本件売買契約においては、BがAに対して何らの表明及び保証を行うものではなく、本件不動産の経年による劣化並びに諸設備の性能低下についてもその責めを負わないことが明記されるとともに、Aも、本件不動産の諸設備に経年劣化が生じており、補修、交換が必要となることを承諾し、後日その点について損害賠償等の異議を述べない旨を約して、本件売買契約が締結されていること(売買代金もこれらのことを斟酌して決定されたものとうかがわれる。)を考慮すると、本件設備に通常の使用に伴う経年劣化やメンテナンスが必要な状態(部品の交換やオーバーホールが必要な状態)があることをもって直ちに瑕疵があるというのは相当ではなく、非常用電源設備として起動しなかったり、起動しても近い時期に故障が想定されるといったように、経年劣化にとどまらない程度にその機能や性能が不全な状態であるような場合に瑕疵があると認めるのが相当である。」

40.居住用建物賃貸借の媒介報酬
  • 宅建業者に居住用の建物の賃借の媒介をしてもらい、賃料1ヶ月の媒介報酬を請求され支払いました。後日、業者から「今回の媒介報酬を賃料1ヶ月分とすることに同意する」との承諾書を求められ応じました。法律相談を受けたところ、半月分を返してもらえると聞きました。本当ですか。
  • 宅建業者が建物の賃借の媒介に関して受けることができる報酬は、報酬告示によって国土交通大臣が定め(宅建業法46条1項、3項)、宅建業者は、報酬告示によって定められた額を超えて報酬を受けてはならない(2項)。報酬告示第四によれば、宅建業者が建物の賃借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額は、賃料の1ヶ月分の金額以内とされている。ただし、居住用建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、賃料の1月分の0.5倍に相当する金額以内とするとなっております。支払った後から半月分の返還を求めた事例につき、東京地判令元.8.7は次の通り判示しました。
判決内容

「宅建業法46条1項、2項及び報酬告示に違反して受領した媒介報酬の私法上の効力については、同条項は、宅地建物取引の仲介報酬契約のうち報酬告示所定の額を超える部分の実体的効力を否定し、契約の実体上の効力を同条項所定の範囲に制限し、これによって一般大衆を保護する趣旨を含んでいると解すべきであるから、同条項は強行法規であって、同条項所定の最高額を超える契約部分は無効であると解するのが相当である。」「『当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼書の承諾を得ている場合』とは、宅建業者が媒介の依頼を受けて媒介契約を締結するに当たって当該依頼者の承諾を得ておくことが必要であり、媒介契約の締結後に上記規制を超える媒介報酬額について依頼者の承諾を得ても後段に規定する承諾とはいえず、同規制に服するものと解するのが相当である。」結局、不当利得返還請求が認められ、半月分の賃料相当額の返還が命じられました。

41.売買土地に石綿含有のスレート片混入
  • 貨物自動車運送事業を営む会社ですが、物流ターミナルの建設及び公園としての利用のため土地を購入しました。ところが土地から広範囲にわたってスレート片が混入していることがわかり、スレート片は法令の基準値を大きく超える石綿が含有していることがわかりました。売買契約の瑕疵にあたると思うのですが、いかがでしょうか。
  • 本件スレート片は、産業廃棄物処理法令にいう「石綿含有産業廃棄物」に該当するので、法令にのっとり厳格な処理が求められます。本件類似の事案につき東京高判平30・6・28は次の通り判示しました。
判決内容

「貨物自動車運送事業等を営む会社(第一審原告)の物流ターミナルの建設及び公園としての利用等のための土地購入に当たり、売買対象物である本件土地の品質・性能として、人の健康に危害を及ぼすおそれがあるために法令上規制されている物質が本件土地(表層部及び工事が予定された地中)に残置等されていないことが当然に予定されていたもの(仮にそのような物質が残置等されていることが判明しているのであれば、その処分費用等を勘案した売買価格となっていたはずのもの)と認められる・・・本件スレート片は、少なくともその大部分が法令の基準値(重量比0.1%)を大きく超える石綿(クリソタイル)を含有しており、石綿含有廃棄物に該当する上、本件土地の表層及び土壌内に広くまんべんなく混入していたのであって、仮に計画掘削部分について分別処理を行うとの第一審被告の主張を前提にしても、その処理費用だけで11億円以上もの多大な金額を要するものであったことが認められる(なお、第一審原告が負担した撤去・処分費用は本件既搬出土に関するものを含めて63億円以上にのぼっている)。したがって、本件土地にそのような本件スレート片が広くまんべんなく混入していることが、物流ターミナルの建設予定地及び公園の予定地である本件土地に予定されていた品質・性能を満たすものでないことは明らかであり、これは、本件売買契約上の「瑕疵」に当たるものと認められる。」そのうえで、土壌の撤去、処分費用や新設工事の遅延に伴う追加費用等、合計約60億円にのぼる損害賠償が認められました。

42.弁護士法違反の不動産取得
  • 宅建業者ですが、不動産の所有者と占有者の間で占有権限の有無について紛争中の物件を取得して、明渡しを実現し、転売して利益を得る事業を展開したいと思うのですが、法律上問題がありますか。
  • 弁護士法73条は、「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手続によって、その権利を実行することを業とすることはできない」と規定しており、違反する行為は刑事 罰の対象であり、私法的な効力も抑制的に解すべきであるとされています。近時、熊本地判平31・4・9は、係争物件を取得した宅建業者から占有者に対する建物明渡請求事件につき次の通り判示しました。
判決内容

「不動産の所有者と占有者との間で占有者の占有権限の有無について紛争がある場合に、不動産の所有者の利益を図る目的で不動産を譲り受けて占有者の明渡しを実現することは、占有者の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれのある行為であり、これを業とすることは、上記弊害が生ずることが防止されているといえる事情が認められなければ、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあるとはいえず、弁護士法73条に違反するものと解するべきである・・・弁護士法73条に違反する行為によって国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止すべき公益上の要請は強く、同条に違反する行為が刑事罰の対象とされていることにも鑑みると、同条に違反する行為の私法的効力についても抑制的に解するのが相当であり、仮に本件売買契約がAと原告の間において無効でないとしても、原告が被告に対して、被告の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを何ら防止することなく本件居室を買い受けたにもかかわらず、本件居室の所有権に基づいて本件居室の明渡しや賃料相当損害金の支払を請求することは、権利の濫用として認められないものと解するのが相当である。」

43.運転免許証による本人確認
  • 宅建業者ですが、売主の本人確認のため運転免許証の提示を求める際、どういった点に気をつけねばならないのでしょうか。
  • 宅建業者は、取引の当事者が本人であるかどうかの確認義務を負っております。少しでも不審な点があれば、居宅または勤務先などに連絡するとか、または同所に行ってこれを確認するなど調査を尽くさなければなりません(東京地判昭34・12・16)。司法書士による運転免許証での本人確認において、確認が不十分であったとして損害賠償責任が認められた事例があります。東京地判平20・11・27は次の通り判示しております。
判決内容

「運転免許証に基づく本人確認が適正に行われるためには、その前提として、運転免許証そのものが真正なものであることが必要であることは明らかなのであるから、本人確認を行うAとしては、最低限本件免許証の外観、形状を見分して不審な点がないことを確認した上で、貼付された写真とBの容貌の照合等、本件免許証に記載された情報と、Bの同一性を確認すべきであったというべきである。ところが、Aは、Bからケースに入ったままの本件免許証を手渡され、中身をケースから出すこともしないまま、本件免許証が真正なものであると判断し、本件免許証に貼付された写真とBの容貌を照合して同一人物であると判断したものであるところ、ケース入りのままでは運転免許証の外観、形状に異常がないかどうかを十分に確認することができないことは明らかである一方、中身の確認は容易に行うことができる事柄であることからすると、このようなAによる本件免許証の外観、形状の確認は、本人確認を行う司法書士に求められる確認として不十分なものであったといわざるを得ない。」本人確認は、不動産にかかわるプロにとって基本中の基本ともいうべきものです。決して手を抜くことなく慎重かつ完璧に行ってください。

44.売主のアスベスト含有建材の説明義務
  • 平成11年に昭和30年に建築の建物を購入しましたが、8年後に建物建て替えをしようとしたところ、建物にアスベスト含有建材が使用されていることが判明しました。売買契約時に、売主において建物のアスベスト建材使用の調査をせず、その説明もありませんでした。売主に責任があると思うのですが、いかがでしょうか。
  • アスベスト建材使用の有無は平成11年当時、建物の取引価格に重大な影響を与える事由であったと解することができるでしょうか。
    類似の事案につき東京地判平24・8・9は次の通り判示しました。
判決内容

「本件売買契約が締結された平成11年当時までに、労働安全衛生法施行令によって、石綿のうち有害性の強いアモサイト、クロシドライトの使用禁止が定められるなど、飛散するアスベストが人体に有害であることが社会的に認知されていたと認めることができる。もっとも、昭和63年ころに通知がなされていることから、当時、建物解体等の際に、解体作業者に有害なものであるという認識があったことは認められるが、解体作業者ではなく当該建物使用者に対しては、アスベストが摩耗等により飛散していない限り有害性はないものとの認識であったというべきである。そして、本件売買契約がなされた平成11年当時、アスベストを使用した建物の解体をする場合には、解体業者が、労働安全衛生規則上の届出をし、大気汚染防止法の作業基準を設定して事前に届出をする義務があり、さらに、特定化学物質等障害予防規則上、アスベストの飛散防止装置の設置、特定化学物質等作業主任者の選任、作業環境測定の実施等を行うことが規定されていたが、これにより、アスベストが使用されていない建物に比して、建物所有者が莫大な解体費用を要していたとまでは認められない・・・本件売買契約締結当時、昭和30年代に建築された建物であれば売買に当たってアスベスト使用の有無を調査するのが通常であったとはいえないことは明らかである。
したがって、Aに、本件売買契約締結の際、本件建物のアスベストの現況を調査し、事前にアスベスト除去工事を行うか、又は、本件建物がアスベストを含有することを買主に説明する義務があったとはいえない。」
アスベスト建材の調査、説明義務に関しては、契約締結当時の法規制の内容と取引の実情が考慮されることになります。
平成28年に引渡しがなされた建物につきアスベスト建材の除去費用を請求した事案があり、隠れた瑕疵に当たるとして請求が認められた判例があります(東京地判令2・3・27)。

45.宅建業者の名義借り利益分配合意の効力
  • 無免許業者ですが、免許を受けた宅建業者の名義を借り、その名義を借りてされた不動産取引による利益を両者で分配する旨の合意を成立させたのですが、こうした合意は有効といえるのでしょうか。
  • 宅地建物取引業法は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を採用して、欠格要件に該当する者には免許を付与しないものとし、宅建業者に対する知事等の監督処分を定めています。そして、同法は、無免許者が宅地建物取引業を営むことを禁じた上で(12条1項)、宅建業者が自己の名義をもって他人に宅地建物取引業を営ませることを禁止しており(13条1項)、これらの違反について刑事罰を定めています(79条2号、3号)。同法が免許制度を採用しているのは、その者の業務の適正な運営と宅地建物取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とするものと解されます。
    質問のケースにつき、最判令3・6・29は次の通り判示しています。
判決内容

「宅建業者が無免許者にその名義を貸し、無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は、同法12条1項及び13条1項に違反し、同法の採用する免許制度を潜脱するものであって、反社会性の強いものというべきである。そうすると、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反し、公序良俗に反するものであり、これと併せて、宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意がされた場合、当該合意は、名義を借りる旨の合意と一体のものとみるべきである。したがって、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し、無効であるというべきである。」
実務上、重要な判決といえます。

46.宅建業法45条の秘密を守る義務
  • 賃貸住宅の管理委託を受けている宅建業者ですが、オーナー夫婦が婚姻費用分担をめぐり離婚調停に入り、妻の弁護士から当方に弁護士法23条の照会があり、賃料収入の状況の報告を求められましたので、管理している夫の預金口座等が記載されている賃貸契約書の写しを弁護士会に送付しました。夫から個人情報保護法23条、宅建業法45条の義務違反だと抗議されました。私に責任があるのでしょうか。
  • 弁護士会に提出した契約書には、宅建業者として夫と取引したことによって取得した夫の銀行口座等の情報を含み、これは宅建業法45条の秘密にあたり、又契約書の内容は夫を識別することができる情報を含むので、個人情報取扱業者である業者が法令に基づく場合など一定の場合以外には本人の同意なしに第三者に提出することが許されない個人情報に該当します。
    類似の事案につき弁護士会の照会に応じた宅建業者の行為の妥当性につき東京地判平22・8・10は次の通り判示しました。
判決内容

「弁護士法23条の2が規定する照会制度は、弁護士が基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とすること・・・にかんがみ、弁護士が、その受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見、収集を容易にし、当該事件の適正な解決に資することを目的として設けられたものであり、その適正な運用を確保する趣旨から、照会する権限を個々の弁護士でなく弁護士会に付与し、個々の弁護士の申出が23条商会の制度趣旨に照らして適当か否かについて弁護士会が判断をした上で照会を行うものとされていると解される。このような23条照会の制度趣旨及び手続に照らすと、23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、当該照会により報告を求められた事項について、当該照会をした弁護士会に対して報告すべき法的義務を負うと解するのが相当である・・・相当の期間継続して夫婦間の婚姻費用の分担を定める資料とするには、Aの得ている賃料収入の状況やそれに伴う支出の状況を賃貸期間等を含め、ある程度詳細に把握することも合理性を否定できず、C弁護士が、本件照会の照会事項として、AとBの業務委託契約及びXが賃貸人となっている賃貸借契約について、契約日や賃料等の報告を求めるとともに、契約書の写しの送付を求めたことには、合理性があると認められる。以上によれば、本件照会には、これを行うべき必要性と合理性が認められるから、本件照会において明示的に照会事項とされている本件各契約書の写しを送付する方法によりBが行った本件報告は違法性を欠くというべきである。」

47.媒介契約による鍵の預かりと建物の占用
  • 宅建業者ですが、所有者から媒介契約に基づき鍵を預かり、物件に「売戸建」と記載した看板を設置しました。物件内に清掃に入った作業員が老朽化した階段の崩落により受傷しました。私は、土地工作物責任を負うべき占有者に当たるのでしょうか。
  • 宅建業者が媒介契約により売却を依頼された建物の鍵を預かったり、売物件である旨の看板を設置したりすることが土地工作物責任の対象となる建物の占有をしていたことになるのかどうかが問題です。
    不動産売買の媒介契約は、当然に対象物件を管理することまで含むものではないし、媒介契約に基づいて買受希望者に内覧の案内をしたり、媒介行為に付随して必要な範囲で残置物の処理、清掃等を業者に依頼する際に鍵を預かったりしたことをもって、民法717条1項の占有者に当たると解することはできないとの考えもあります。
    類似の事案につき、札幌地判令4・1・17は次の通り判示しました。
判決内容

「被告Aは、本件事故当時、被告Bらとの間の媒介契約に基づき、媒介行為に必要な範囲で鍵を預かることがあったことを自認している。また、前提となる事実・・・のとおり、被告Aは本件建物の前に「売戸建」などと記載された看板を設置していたことが認められる。
しかし、これらの事実をもって、被告Aが本件建物を事実上支配管理しているとか、支配管理すべき地位にあるということはできない。
したがって、被告Aが、民法717条1項所定の本件建物の占有者に当たるとはいえない。」

48.耐震診断の結果と不利益事実の不告知 New!
  • 中古住宅販売業者から土地付中古住宅を購入しましたが、耐震診断を行ったところ「倒壊または大破壊の危険あり」と診断されました。本件建物の状況等の不利益事実について告知しなかったことによる契約取消を求めたいのですが、認められますか。
  • 近時、建物の耐震診断が自治体の協力により、容易に受けられるようになっており、これを受けた購入者から、耐震診断後総合判定値にショックを受け、救済を求める事例が増加しています。
    名古屋地判平28・12・20は同種事案につき「本件建物の基礎等について」および「本件建物の耐力等について」に分けて、増築部分の基礎の不備、耐力壁不足を詳細に認定し、次の通り判示しました。
判決内容

「本件建物は、地震による横揺れの際に、転倒する危険があるものと認められ、この点は、本件建物を購入するか否かについての判断に通常影響を及ぼす不利益な事実であるということができる。ところが、Aは、上記事実を原告らに告知せず、かえって、前記のとおり、本件建物につき、お金をかけてしっかり耐震補強をした旨説明していたのであるから、このような説明を受けた一般の消費者は、本件建物がその基礎と土台の一体性を欠くため地震による横揺れが生じた際には転倒するような危険な状態にあるとは認識しないのが通常であると考えられる・・・以上により、A及びBの原告らに対する不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項、5条1項)の事実が認められ、また、本件売買契約は、本件土地及び本件建物の両方を目的物とする1個の契約であると認められるから・・・原告らは、本件売買契約の全体を取り消すことができる。」
今後の同種事案の解決の指針となる判決と思われます。

49.売買契約の取消しと居住利益の控除 New!
  • 中古住宅の売買契約が耐震性の欠如により、消費者契約法4条2項、5条1項による取消が認められることになりました。売買業者から、代金は全額返金するが、買主が居住していた分利益を得ていたのだから、その居住利益を控除するといっています。応じなければならないのでしょうか。
  • 家屋を目的物とする売買契約が取消された場合、買主は当該家屋を返還するとともに、当該家屋の使用利益を得ていれば、これを返還すべき義務を負います。建物自体に社会経済的価値がないことが取消理由となった場合は、居住利益の控除はどのように考えるべきなのでしょう。
    名古屋地判平28・12・20はこの件につき次の通り判示しています。
判決内容

「家屋を目的物とする売買契約が取り消された場合、買主は、不当利得返還義務として、当該家屋を返還する義務を負うとともに、当該家屋の使用利益を得ていれば、これを返還する義務を負うと解するべきである。ところで、売買の目的である建物に重大な瑕疵があり建物を建て替えざるを得ない場合において、当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、上記建物の買主がこれに居住していたという利益については、当該買主からの工事施工者等に対する不法行為に基づく建替費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないと解するのが相当である(最高裁平成22年6月17日第一小法廷判決・・・)。そして、その趣旨は、倒壊の具体的なおそれがあるなど社会経済的な価値を有しないと評価されるような建物については、買主による居住は自らの身を危険にさらすことにほかならず、そこに居住することを利益とみることができないことを根拠に、居住利益控除の主張を排斥したものであるといえる。」

50.擁壁の安全性や法令適合性の調査義務 New!
  • 土地売買を仲介するに際し、擁壁に亀裂が存在します。仲介業者として擁壁の安全性について調査する義務まで負っているのでしょうか。
  • 宅建業法35条に基づく説明義務とその前提としての説明義務は、「少なくとも」と表現される事項が列挙されており、限定的に解釈することはできません。土地売買の媒介の際の、媒介業者の擁壁の安全性の調査義務については、広島地判平27・11・24は次の通り判示しています。
判決内容

「被告Aは宅地建物取引業者であるから、売買契約の媒介を行う場合には、宅建業法35条に基づく説明義務を負い、当該説明義務を果たす前提としての調査義務も負うものと解される。そして、同条は「少なくとも次の各号に掲げる事項について」説明すべきこととしており、宅地建物取引業者が調査説明すべき事項を限定列挙したものとは解されないから、宅地建物取引業者が、ある事実が売買当事者にとって売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項であることを認識し、かつ当該事実の存在をうかがわせる事情を知り、又は知り得た場合には、信義則上、その事実の有無について調査説明義務を負うものと解される。建物の敷地として本件土地を購入する原告にとって、売買契約を締結するか否かを決定するために、建物の敷地部分を支える本件擁壁の安全性や、いずれ本件擁壁の補修を行う際にいかなる工事が必要となるのかに関係する本件擁壁の法令への適合性が重要な事項であることは明らかであり、そのことは被告Aも認識可能であったというべきである。したがって、被告Aは、媒介業者として負う信義則上の義務として、本件擁壁が現行法令等に適合しているか、また、少なくとも外見上、本件擁壁の安全性について問題となり得る点がないかを調査する義務を負っていたというべきである。」